大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大津地方裁判所 昭和61年(行ウ)6号 判決 1988年3月28日

原告

大谷暢順

右訴訟代理人弁護士

鍛冶良道

被告

大津地方法務局長浜支局登記官太田二郎

被告

同法務局同支局登記官

平谷重喜

被告

大津地方法務局長

竹本惣一郎

被告ら指定代理人

細井淳久

外七名

被告補助参加人

本願寺別院

右代表者代表役員

藤田智賢

被告補助参加人

本願寺別院大通寺

右代表者代表役員

藤田智賢

右補助参加人ら訴訟代理人弁護士

表権七

三宅一夫

入江正信

山下孝之

千森秀郎

田中浩三

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告大津地方法務局長浜支局登記官太田二郎が、昭和六〇年二月二二日にした次の登記処分を取消す。

(一) 滋賀県長浜市元浜町三二番九号所在本願寺別院大通寺に関する代表役員原告の解任登記及び代表役員花邑晃慧の就任登記

(二) 同県東浅井郡虎姫町大字五村一五〇番地所在本願寺別院に関する代表役員原告の解任登記及び代表役員能邨英士の就任登記

2  被告大津地方法務局長浜支局登記官平谷重喜が昭和六〇年一一月二六日にした次の登記処分を取消す。

(一) 前記本願寺別院大通寺に関する代表役員松山成慶の就任登記

(二) 前記本願寺別院に関する代表役員松山成慶の就任登記

3  被告大津地方法務局長竹本惣一郎が、大津地方法務局長浜支局昭和六〇年二月二二日受付第九号本願寺別院大通寺代表役員変更登記申請事件及び同日受付第一〇号本願寺別院代表役員変更登記申請事件につき同庁登記官が行った登記実行処分に対する原告の審査請求を棄却するとした裁決はこれを取消す。

4  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告の答弁

(本案前の答弁)

1 原告の大津地方法務局長浜支局登記官太田二郎、同平谷重喜に対する訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、宗教法人真宗大谷派(以下「大谷派」または「真宗大谷派」という。)の被包括法人である宗教法人本願寺別院大通寺(以下「大通寺」という。)及び同本願寺別院(以下「五村別院」といい、これと大通寺とを合わせて「両別院」という。)の住職、代表役員である。

(二) 被告登記官太田二郎(以下「被告太田登記官」という。)、同平谷重喜(以下「被告平谷登記官」という。)は、両別院の商業登記を管轄する大津地方法務局長浜支局の登記官、同竹本惣一郎(以下「被告竹本法務局長」という。)は大津地方法務局長である。

2  登記処分の存在

(一) 被告太田登記官は、昭和六〇年二月二二日、次の登記処分(以下「本件登記処分(一)」という。)をした。

(1) 滋賀県長浜市元浜町三二番九号所在大通寺に関する代表役員原告の解任登記及び代表役員花邑晃慧(以下「花邑」という。)の就任登記

(2) 同県東浅井郡虎姫町大字五村一五〇番地所在五村別院に関する代表役員原告の解任登記及び代表役員能邨英士(以下「能邨」という。)の就任登記

(二) 被告平谷登記官は、昭和六〇年一一月二六日大通寺及び五村別院に関する代表役員松山成慶の各就任登記(以下「本件登記処分(二)」といい、これと本件登記処分(一)とを合わせ、「本件各登記処分」という。)

3  本件各登記処分の違法性

しかしながら、本件登記処分(一)は次の(一)ないし(四)の事由により、同処分(二)は次の(五)の事由により、登記によって公示された実体関係に無効の原因があるので、商業登記法一〇九条一項二号の「登記された事項につき無効の原因があること」に該当するから違法であり、取消を免れない。

(一) 自律性違反

両別院規則六条二項には、住職は真宗大谷派の管長が任命すると規定されている。

大谷派においても、旧宗憲においては、管長が住職任命権を持つと定められていたが、昭和五六年六月一一日、新宗憲へと改正されて管長の任命権はなくなり、同年八月一八日変更された大谷派規則附則2には「この法人が包括する法人の規則中、真宗大谷派の管長の職務に属する事項は、真宗大谷派の宗務総長が行うものとする。」と規定された。

しかしながら、両別院は、右大谷派規則の変更に対応して両別院規則の変更をしておらず、あくまでも「管長が任命する」と規定したままである。

したがって、大谷派が管長の職務を宗務総長が行う、つまり宗務総長が住職を任命出来ると変更しても、両別院はこれを認めたわけではなく、右変更は両別院には拘束力がなく、包括、被包括関係から拘束力を理由づけるなら、それは被包括法人たる両別院の自主性、自律性に違背する。

(二) 形式審査違反

仮に、住職の任命権は管長であるとする被包括法人である両別院の規則を、大谷派規則の右変更によって宗務総長と読み替えるべきだとすると、管長廃止を認めない両別院に、両別院の意思にかかわらず管長廃止を認めさせるという効果を生ずることになる。これは明らかに重大な問題を含むものであって、単なる形式論理的解釈で処理出来ず、形式的書面審査の上においても無視出来ない。形式に徹するなら、両別院の規則が大谷派規則改正に対応した改正がなされていないと言う方がはるかに正しい解釈である。

(三) 審査義務の範囲内での違反

宗教法人法一二条において、①代表役員の任免(同条一項五号)、②制約、被制約事項(同項一二号)は規則に定め所轄庁の認証を受けなければならないとされ、同法二六条により、この変更についても認証を要しかつ認証を受けなければ効力を生じないとされている(三〇条)。この点は登記官の調査義務の範囲内である。大谷派が、認証の対象外である別院住職の選任に関する特別措置条例(以下「特措条例」という。)を昭和六〇年二月一七日に制定し、宗務総長が特命住職を任命し、これによって現に就任している当該別院の代表役員たる住職は同時に解任されると規定(四条)しても、これは両別院の代表役員の任免と被制約事項であるから、大谷派が右の制約事項に関する規則を設けて所轄庁の認証を得、これに対応して両別院の規則においても代表役員に関する事項と被制約事項に関してこれを変更し、所轄庁の認証を要するのであるが、本件ではこれらはなされておらず、したがって、右特措条例は、大谷派にとって有効でも、両別院には無効であり、この点は、被告太田登記官の調査義務の範囲内のことであるが、同登記官は右調査義務を怠っている。

(四) 原告解任根拠資料の欠如

解任根拠を調べることは形式的審査の範囲である。大谷派規則附則2に基づき宗務総長が解任、任命権ありとするなら、特命住職制はもともと必要がなかった。それにもかかわらず大谷派が昭和六〇年二月一七日特措条例を制定し、四条において「特命住職の就任が決定したときは、現に就任している当該別院の代表役員たる住職は同時に解任されたものとし」と規定したのは、大谷派規則附則2では両別院を規制することが出来ないと考えたからであるはずである。

そして、本件登記処分(一)を求めた登記申請に特措条例が添付されているものの、特措条例は、両別院規則四七条にいう、両別院に対して効力を有する真宗大谷派宗憲(以下「宗憲」という。)及び真宗大谷派規則ではないので原告解任の資料とはなしえず、そうすると、他に宗務総長が原告を解任したとする書面が必要であるが、右登記申請中のどこにも見当たらない。

(五) 後行行為の違法

原告が本来両別院の代表役員であることは前述の通りであり、花邑、能邨に代表役員を変更したことは違法であり取消さるべきである。そして先行行為である本件登記処分(一)が右のとおり違法であれば、その瑕疵は後行行為である本件登記処分(二)にも承継され、商業登記法一〇九条一項二号に該当する。

4  審査請求と裁決

原告は、本件各登記処分に対して審査請求したところ、被告竹本法務局長は、昭和六〇年一〇月三一日付でこれを棄却するとの裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

5  本件裁決の違法性

本件裁決には、次のとおり理由不備があるので違法である。

(一) 原告が右審査請求の理由として、先例違反、すなわち、昭和五六年一〇月二九日大通寺の、同年一一月一〇日五村別院の、各代表役員として、先に一旦解任登記されていた原告につき、回復登記がされておりながら、昭和六〇年二月二二日には、右と同一事案である今回の原告の解任登記の申請を被告太田登記官が受理したことは先例に違反する旨主張していたが、本件裁決は、これに対して一言もふれていない。

(二) 本件裁決は、前記3(一)、(二)の大谷派規則の変更を説明するのみで、両別院のこれに対応する規則の変更が無いことについての理由が不備である。

(三) 本件裁決は、何故に、前記3(三)記載の宗教法人法上の制約事項を無視してよいのかについて説明がなく、理由不備というべきである。

(四) 本件裁決は、原告解任には特措条例を根拠としたのかしないのか、根拠としないなら何を根拠としたのか、裁決庁と原処分登記官は同じ考えに立っているのか、違うのかについて、判然としない点がある。その意味において本件裁決は理由不備である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)は不知、同(二)は認める。

2  同2及び4は認める。

3  同3及び5は争う。

三  被告の本案前の主張

1  原告適格の欠如

(一) 原告は、両別院の正当な代表者代表役員たる住職の地位を失なっているので、本件各登記処分の取消を求める原告適格を有していない。

(二) 真宗大谷派(以下「宗門」ともいう。)の現行の宗憲及び両別院条例によると、宗門は、その組織の一部として寺院、教会等を有するものとされているところ、寺院は別院と普通寺院に区別され、別院は、その地域の教化の中心道場として、その地域の弘教の中心とされ、同時に設立、合併、移転等をはじめ、多面にわたって宗務総長の支配監督に服するものとされており、法人格こそ宗教法人真宗大谷派とは別人格であるものの、宗門の組織上は、その組織の一部として普通寺院とは異なり、地方における最も重要な寺院として位置付けられているのであり、かつ、これが本件紛争の生ずる以前からの宗門のあり方であって、宗門の別院である本件両別院は、宗門の一部として普通寺院にも増して、宗憲をはじめとする宗門の規範及び宗門の組織上より上位とされる機関の制約を受けるものである。したがって、両別院の規則六条二項は「住職は宗憲により、教師のうちから真宗大谷派の管長が任命する。」旨規定してはいるが、同条項の文言は、単に当該条項制定当時の宗憲における住職の任命方式に従った表現を用いたにすぎず、管長を唯一の任免権者とすることまでも含む趣旨ではなく、前記のような別院の宗門における位置付けからすれば、同条項は、むしろ両別院が、宗門の組織上広範な制約に服しているのと同様、宗教法人としても包括法人たる宗教法人真宗大谷派に広く制約されることを承認したもの、すなわち、宗門において宗憲により任命された住職をもって、宗教法人としての両別院の代表役員とすることを認めたものと解すべきである。

そして、別院条例及び特措条例の規定の趣旨からすると、別院条例及び特措条例は宗憲の下位規範として宗憲に基づき宗憲を補充し具体化する規範であることは明らかであるから、該別院条例及び特措条例が宗門の一部である両別院に適用されることは当然であり、宗教法人たる両別院の規則六条二項の趣旨が前記のように解すべきものである以上、右各規範によって住職の地位に変動が生ずれば、それに伴って代表役員にも変動が生ずることもまた両別院が自ら承認しているものというべきである。

そして、特措条例に基づき、昭和六〇年二月一八日大通寺の特命住職に花邑晃慧が、五村別院の特命住職に能邨英士が、それぞれ就任し、原告は両別院の代表役員たる住職の地位を解任されたものである。

2  請求の趣旨第1、2項の訴えの不適法性

(一) 登記官の登記処分に対する審査請求は商業登記法一〇九条一項各号に該当する事由が存する場合に限定されるところ、右法理は登記官の処分に対する取消訴訟にも、そのまま妥当する。

(二) 本件各登記処分には同項一号の事由(同法二四条一号ないし三号の事由)は存しない。また、同法一〇九条一項二号にいう、「登記された事項につき無効の原因がある」とは、登記によって公示された実体関係に無効の原因があることをいうものと解せられるところ、本訴請求の趣旨1の各登記によって公示された実体関係には無効の原因は存しないし、本訴請求の趣旨2の各登記によって公示された実体関係にも無効の原因はみあたらない。したがって、本件各登記には登記官による職権抹消事由が存しないから、これに対する取消訴訟は許されず不適法である。

四  被告の本案についての主張

1  本件各登記処分の適法性

(一) 法人登記の職権抹消手続における登記官の審査権限は、登記簿、申請書及びその添付書類のみに基づいてする、いわゆる形式的審査の範囲にとどまるものであるから、右職権抹消処分の取消訴訟においては、裁判所は、右形式的審査権限の範囲内において登記官がとった権限行使の適否を審理判断すれば足り、登記官の審査権限の範囲に属さない右書類以外の資料に基づいて処分の適否を判断すべきではないと解されているところ、右の法理は登記官の登記処分取消訴訟にもそのまま妥当する。

(二) 本件登記処分(一)の経緯とその適法性

(1) 被告太田登記官は、昭和六〇年二月二二日、申請人大通寺に係る「宗教法人変更登記申請書」を受け取った。

右申請書には、「登記すべき事項」として、代表役員につき、昭和六〇年二月一八日、原告が解任され、花邑が就任した旨、並びに「申請人代表者」として、花邑の住所及び氏名が記載されており、これに左の各標題の書面が添付されていた。

ア 委任状

イ 任命書(写)

ウ 代表役員就任承諾書

エ 宗務役員であることの証明書

オ 証明書

カ 告示第五号(写)

キ 参与会議事録(写)

ク 常務会議事録(写)

ケ 参考資料

(ア) 宗教法人「本願寺別院大通寺」規則抜粋

(イ) 別院住職の選任に関する特別措置条例

(ウ) 真宗大谷派宗憲

(エ) 宗教法人「真宗大谷派」規則

(オ) 別院条例

(カ) 宗務職制

(2) 右各添付書面によれば、右登記の申請の適否については、次のとおりである。

ア 大通寺規則六条、四七条及び大谷派規則昭和五六年変更附則二項によれば、大通寺の代表役員は、真宗大谷派宗憲により、宗務総長が任命する住職の職にある者をもって充てるものと定められ、大通寺規則四七条によれば、大通寺は、真宗大谷派宗憲(それに基づく条例を含む。)に拘束されるものであるところ、真宗大谷派宗憲七七条及びこれに基づく特措条例一条ないし五条によれば、大通寺の代表役員に充てられる住職は、真宗大谷派の宗務役員のうちから内局が選定し、参与会及び常務会の議決を経て、宗務総長がこれを任命し、その就任が決定したときは、現に就任している住職は、同時に解任されたものとし、宗務総長は、その就任及び解任を告示するものとされ、新たに就任した住職は、大通寺規則六条にいう代表役員たる住職となると定められている。

したがって、大通寺の代表役員は、大通寺規則六条及び四七条により、真宗大谷派における手続によって自動的に就任し、あるいはその資格を喪失することになる。

イ そこで、本件登記申請書の添付書面をみると、花邑は、「宗務役員であることの証明書」によれば、真宗大谷派の宗務役員であること、「証明書」によれば、昭和六〇年二月一七日に内局により大通寺の住職として選定されたこと、「参与会議事録(写)」及び「常務会議事録(写)」によれば、同月一八日に参与会及び常務会の議決を経たこと、「任命書(写)」及び「代表役員就任承諾書」によれば、同日に宗務総長により大通寺の住職に任命されこれを承諾したことが認められ、以上によれば、右同日、花邑が大通寺の新住職と決定し、同時に原告が大通寺の住職を解任されたこと、「告示第五号(写)」によれば、宗務総長が同日に右の旨を告示したことがそれぞれ認められ、右認定に反する資料はなかった。

ウ 以上によれば、前記各添付書面による限り、花邑の住職就任による代表役員就任及び原告の住職解任による代表権の喪失は、大通寺規則六条及び四七条に照らし、いずれも有効と認められるから、右変更の登記の申請は、商業登記法二四条四号、八号又は一〇号その他の各号のいずれにも該当しない。

エ よって、被告太田登記官が右申請を却下せず、右変更の登記をしたことには、何ら違法な点はない。

(3) 被告太田登記官は、昭和六〇年二月二二日、五村別院に係る「宗教法人変更登記申請書」を受け取った。

右申請書には、「登記すべき事項」として、代表役員につき、昭和六〇年二月一八日、原告が解任され、能邨が就任した旨、並びに「申請人代表者」として、能邨の住所及び氏名が記載されており、これに前記1(二)(1)アないしケと同一(但し、(1)ケ(ア)は、五村別院規則抜粋)の各標題の書面が添付されていた。

(4) 右各添付書面によれば、右登記の申請の適否については、次のとおりである。

ア 五村別院の代表役員も、大通寺のそれと全く同様に、五村別院規則六条及び四七条により、真宗大谷派における手続によって自動的に就任し、あるいはその資格を喪失することになる。

イ そこで、本件登記申請書の添付書面をみると、五村別院の代表役員の変更手続も、大通寺の場合と全く同様に行われたことが認められ、右認定に反する資料はなかった。

ウ 以上によれば、前記各添付書面による限り、能邨の住職就任による代表役員就任及び原告の住職解任による代表権の喪失も、五村別院規則六条及び四七条に照らし、いずれも有効と認められるから、右変更の登記の申請は、商業登記法二四条四号、八号又は一〇号その他の各号のいずれにも該当しない。

エ よって、被告太田登記官が右申請を却下せず、右変更の登記をしたことには、何ら違法な点はない。

(5) なお、右のとおり形式的審査権限を有するにすぎない被告登記官らは、大谷派規則附則2は両別院の宗教法人としての自律権を侵害しているし、また、特措条例四条は主務官庁の認証を得ていないので、両別院規則六条二項と抵触する限りにおいて、いずれも無効であるかどうかというような、その効力についてまで判断する権限を有しない。

更に、原告につき大通寺の代表役員の回復登記が一度なされたからといって、これに関する爾後の選任・解任登記ができなくなるわけではない。

(三) 本件登記処分(二)の適法性

前記(二)のとおり、原告が大通寺及び五村別院の各代表権を喪失したことによる代表役員の変更の登記は、いずれも適法であるから、これらをそれぞれ前提とする大通寺及び五村別院の各昭和六〇年一一月二六日付変更登記も、すべて適法である。

2  本件裁決の適法性

行政不服審査法四一条一項が裁決書に理由を付記することを求めている趣旨は、これにより審査庁の判断を慎重ならしめ、究極においてその公正を担保することにあり、一般的には、裁決の理由には主文に至るまでの論理的な判断の過程を記載することが要求されるから、理由付記の程度としては、審査庁が当該処分について適法又は違法、あるいは正当又は不当とした判断の根拠を審査請求人に理解できる程度に具体的に記載すれば足りるものであって、該裁決の結論と関係のない不服事由に対応する理由を欠いても理由付記に不備があるとはいえない。そして、本件裁決は、被告登記官らの登記処分を正当なものとして判断しているのであるが、その判断の根拠、主文に至る論理的な過程は本件裁決中に明示されているのであるから、何ら理由付記の不備があるとはいえない。

五  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  原告適格について

原告の当事者適格については形式的審査権の問題外であるから、原告がその当事者適格を有することの資料については登記簿、申請書添付書類に限定される必要はない。

ところで、原告の両別院の住職代表役員としての地位の解任は、次の理由によって無効であるので、原告は両別院の代表役員の地位を失っていない。

(一) 被告が右解任の根拠として主張している宗憲とは昭和五六年五月二七日開催の大谷派宗議会の決議によって改正されたものを指しているが、この改正は、次の理由により不存在無効である。

(1) 同日開催の大谷派宗議会は、竹内良恵管長代務者の招集にかかるものであるが、同人の代務者就任の根拠規定である改正管長推戴条例は無効であるから同人は代務者ではなく、したがって右宗議会は不成立である。

(2) 右宗議会の宗議会議長は古賀制二であり、宗務総長は五辻實誠であるが、同人らは何れもその地位になく、したがって右宗議会は不成立である。この点の詳細は次のとおりである。

ア 昭和五五年六月六日開催の大谷派宗議会においては、当時の宗務総長である嶺藤亮が辞任し、五次實誠が宗務総長として推挙の決議を受けた。(旧宗憲第三〇条)また、従来の五辻實誠宗議会議長に代わり、古賀制二が決議によって宗議会議長として選出された(同第三五条)。

しかしながら、右決議は、宗議会開催禁止の仮処分に違反して開催された宗議会でなされたものであるから、不存在である。

そうであるならば、仮に管長によって宗務総長として五辻が、宗議会議長として古賀が任命されたとしても、その前提要件が存在しないのであるから、同人らは、総長、議長としての地位にある訳がない。

イ 大谷派宗議会議事条規一一条によると、議長が議事を開くことになっているので、議長が存在しない以上議事は開かれたことにはならない。右議事条規一五条によると、開議宣告権は議長にあり、これあるまでは何人も議事について発言できず、したがって、議決はありえない。

およそ議長が存在しない議会が有効である訳がない。

ウ 日本国憲法下における天皇の議会の招集に関する規定とほぼ同じ精神を以て規定されている大谷派の旧宗憲第一九条において、「管長は、内局の補佐と同意とによって」「議会の招集」を行うとされている。また旧宗憲四四条において「内局は宗議会に対し連帯して責任を負う」とされている。

そして旧宗憲一九条二項により、その招集のための達令には、宗務総長と参務の副署を要するのであり、これによって、補佐と同意が担保されている。したがって、議会の実質的招集権は内局(その代表者宗務総長)にあり、管長の招集権は形式的なものにすぎない。昭和五六年五月の議会の招集は、仮処分違反によって推挙された実質的招集権者五辻宗務総長の下に招集されたものであって、五辻に選定(旧宗憲四三条)された参務と共に無効内局が補佐と同意を与えたとしてもそれは無効であり議会そのものが不存在である。

なお参務は旧宗憲四三条によれば宗務総長が選定することになっているが、宗務総長が存在しない以上参務が存在する訳がない。

エ 旧宗憲三一条、四六条によれば、宗務総長が条例案を提出することが原則となっている。そして昭和五六年五月における改正宗憲案は、五辻宗務総長の提案にかかるものである。しかるに五辻は宗務総長の地位にないとすれば、その提案自体が存在しないことになり、議決も不存在ということになる。したがって現在でも大谷派の宗憲は改正されてはいない。

オ なお前述の管長代務者は、有効な旧管長推戴条例、無効な同条例のいずれによっても、その九条において一条と共に宗務総長が決定し招集して決するものであり、竹内良恵は、五辻総長の下に推戴されたが、五辻は宗務総長でないのであるから、竹内が管長代務者に就任出来る訳がなく、五六年五月の宗議会は不成立である。

(二) また、被告が右解任の根拠として主張している大谷派規則とは、昭和五五年一一月の宗議会において可決成立したものを指しているが、この改正も前述と同様の理由によって無効である。したがって、同規則附則2も無効であり、これを前提とした宗務総長の行為も無効であるし、そもそも、宗務総長自身がその地位にないのであるから、五辻宗務総長の行為は不存在無効である。

(三) 両別院規則六条二項によると、「住職は宗憲により、教師のうちから真宗大谷派の管長が任命する。」と規定されている。同規則四七条には「宗憲及び真宗大谷派規則中この法人に関係がある事項に関する規定は、この法人についても、その効力を有する」とあり、したがって、宗憲と大谷派規則は一応、本件両別院を規制するが、これは抵触のない限りという意味である。そして大谷派の旧宗憲七一条には住職の任命規定があり、一九条には管長が住職任命権を持つことと定められていた。右の旧宗憲は、昭和五六年六月一一日新宗憲へと改正されて管長の住職任命権はなくなり、別院条例一八条により、門首若くは新門、連枝がなることとなった。新門、連枝を住職に任命する者については規定が無い。

ところが、同年八月一八日に変更された大谷派規則の附則2によると、管長の職務に属する事項は宗務総長が行うとあり、これによると、一応宗務総長が住職の任命権を持つものと解され、また、大谷派の法規である特措条例には大谷派において宗務総長が別院の特命住職を任命し、それに伴って別院住職が当然に解任されると規定されている。

かように、包括団体である大谷派において住職は宗務総長が任命するとあるが、被包括寺院たる両別院において住職は管長が任命するとあるので抵触が生じており、このように抵触のある時は、包括団体は被包括寺院の自律性を侵害出来ない故に包括団体の規定の被包括寺院への適用は許されない。

したがって宗務総長による右任命に被包括寺院が服するためには、被包括寺院の包括団体に対応した規則の改正を必要とするのであり、それを被包括寺院の規則の改正なくして、包括団体の法規を適用せんとすれば被包括寺院の自律性を侵害することとなり許されない。

仮に、包括法人たる大谷派の宗憲条例が被包括法人たる両別院規則と抵触した場合には、包括法人の規範が拘束力を持つとすると、両別院の規則を改正したければ、主務官庁の認証を要しない包括法人の規範を変えればその目的を達することができることとなり、これは主務官庁の認証を要する宗教法人法二六条の脱法行為となることは明らかであって許されない。

2  請求の趣旨第1、2項の訴えの適法性について

本件登記は、その登記によって公示された実体関係に無効の原因があるので、商業登記法一〇九条二項二号の「登記された事項につき無効の原因があること」に該当する。

右の無効原因の詳細は、前記1(一)ないし(三)と同じである。

六  被告の本案の主張1(形式的審査)に対する原告の反論

1  本件についていえば、大谷派の宗務総長が何故両別院の住職を任命、解任出来るかは単なる形式的審査では導き出せる問題ではない。被告登記官らの本件各登記処分は、実は実質的審査の範囲に入り込んでいるのであって、形式的審査を逸脱している。

2  両別院規則四七条は、「宗憲及び真宗大谷派規則中この法人に関係がある事項に関する規定はこの法人についても、その効力を有する」と規定されているので、宗憲、規則以外は両別院について効力を持つものではなく、特措条例は右四七条の規定外である。

したがって、形式的審査からは、特措条例を本件各登記処分にあたり適用することは許されない。

3  昭和五七年一〇月二九日には大通寺の、同年一一月一〇日には五村別院の、輪番を代表役員としていた当時の各登記を抹消し、原告を代表役員とする回復登記がされたが、これは、大谷派の法規は本件両別院の規則と抵触する限りにおいて適用は許されないとして、正に形式的審査権の範囲内において行われたはずである。そうであれば本件各登記処分の取消も形式的審査権の範囲内において行われ得るはずである。

第三  証拠<省略>

理由

一争いのない事実

請求原因1(二)(当事者)、2(本件各登記処分の存在)、4(審査請求と本件裁決の存在)の各事実は、すべて当事者間に争いがない。

二本件各登記処分の適法性

1 ところで、登記官の審査権限については、宗教法人法六五条で準用する商業登記法二四条が登記申請の却下事由として掲げている事由は、同条一〇号を除き、大部分が形式的事由にとどまっていること及び登記の迅速性の要請からすると、登記申請を受けた登記官は、登記簿、申請書及びその添付書類のみに基づいて、登記申請の形式上の適法性についてのみ審査する権限と義務を有するにすぎないと解すべきであり、同条一〇号が「登記すべき事項につき無効又は取消しの原因があるとき」を登記申請の却下事由として掲げているのは、無効、取消が客観的に明白であると認められる場合に登記官がその判断によって登記申請を却下することができるとしたのであって、登記事項である法律関係の有効無効につき解釈上疑義ある場合には、登記官は一応その登記をして、有効無効の決定は関係者が訴訟において争うところにまかせなければならないと解すべきである。

2  そして、本件においては、<証拠>によると、被告太田登記官は、昭和六〇年二月二二日、申請人大通寺に係る「宗教法人変更登記申請書」を受け取り、右申請書には、「登記すべき事項」として、代表役員につき、昭和六〇年二月一八日、原告が解任され、花邑が就任した旨、並びに「申請人代表者」として、花邑の住所及び氏名が記載され、これに次の各標題の書面、すなわち、委任状、任命書(写)、代表役員就任承諾書、宗務役員であることの証明書、証明書、告示第五号(写)、参与会議事録(写)、常務会議事録(写)、並びに参考資料として、宗教法人「本願寺別院大通寺」規則抜粋、別院住職の選任に関する特措条例、真宗大谷派宗憲、宗教法人「真宗大谷派」規則、別院条例、宗務職制が各添付されており、右添付の参考資料によると、大通寺規則六条一項には、「代表役員は、この寺院の住職の職にある者をもって充てる。」、同条二項には「住職は、宗憲により、教師のうちから、真宗大谷派の管長が任命する。」と、また、四七条には、「宗憲及び真宗大谷派規則中この法人に関係がある事項に関する規定は、この法人についてもその効力を有する。」と定められ、大谷派規則昭和五六年変更附則2には、「この法人が包括する法人の規則中、真宗大谷派の管長の職務に属する事項は、真宗大谷派の宗務総長が行うものとする。」と定められ、宗憲七七条には「寺院及び教会並びに住職、教会主管者及びこれらの代務者に関する事項は、条例でこれを定める。」と定められ、これに基づく別院住職の選任に関する特措条例によると、大通寺は同条例施行の対象別院とされ(二条)、別院の住職は、特命住職と呼ばれ(三条)、その任命等については、四条において、「特命住職は、本派の教師である宗務役員のうちから内局が選定し、参与会及び常務会の議決を経て、宗務総長がこれを任命する。」(一項)、「特命住職の就任が決定したときは、現に就任している当該別院の代表役員たる住職は同時に解任されたものとし、宗務総長は、その就任及び解任を告示するものとする。」(二項)と規定され、特命住職は、別院の代表役員となる(五条一項)と定められていることが認められ、右認定に反する証拠はなく、これらの資料による限り、大通寺の代表役員は、大通寺規則六条及び四七条により、真宗大谷派における手続によって自動的に就任し、あるいはその資格を喪失することになると解しうる。

そして、右登記申請書の添付書面をみると、花邑は、「宗務役員であることの証明書」によれば、真宗大谷派の宗務役員であること、「証明書」によれば、昭和六〇年二月一七日に内局により大通寺の住職として選定されたこと、「参与会議事録(写)」及び「常務会議事録(写)」によれば、同月一八日に参与会及び常務会の議決を経たこと、「任命書(写)」及び「代表役員就任承諾書」によれば、同日に宗務総長により大通寺の住職に任命されこれを承諾したことがそれぞれ認められ、以上によれば、右同日、花邑が大通寺の新住職と決定し、同時に原告が大通寺の住職を解任されたこと、「告示第五号(写)」によれば、宗務総長が同日に右の旨を告示したことがそれぞれ認められ、右認定に反する資料はなかった。

以上によれば、前記各添付書面による限り、花邑の住職就任による代表役員就任及び原告の住職解任による代表権の喪失は、大通寺規則六条及び四七条に照らし、いずれも有効と解しうるから、右変更の登記の申請は、宗教法人法六五条で準用する商業登記法二四条四号、八号又は一〇号その他の各号のいずれにも該当しないものと考えられる。

したがって、被告太田登記官が右申請を却下せず右変更の登記をしたことには何ら違法な点はなく、適法である。

3  次に、<証拠>によると、被告太田登記官は、昭和六〇年二月二二日、五村別院に係る「宗教法人変更登記申請書」を受け取り、右申請書には、「登記すべき事項」として、代表役員につき、昭和六〇年二月一八日、原告が解任され、能邨が就任した旨、並びに「申請人代表者」として、能邨の住所及び氏名が記載されており、これに前記2と同一(但し、大通寺規則抜粋は、ここでは五村別院規則抜粋)の各標題の書面が添付されており、右各添付書面によれば、右登記の申請の適否については、右2と同様、すなわち、五村別院の代表役員も、大通寺のそれと全く同様に、五村別院規則六条及び四七条により、真宗大谷派における手続によって自動的に就任し、あるいはその資格を喪失することになると解することができ、そして、本件登記申請書の添付書面をみると、五村別院の代表役員の変更手続も、大通寺の場合と全く同様に行われたことが認められ、右認定に反する資料はなかった。

以上によれば、前記各添付書面による限り、能邨の住職就任による代表役員就任及び原告の住職解任による代表権の喪失も、五村別院規則六条及び四七条に照らし、いずれも有効と解しうるから、右変更の登記の申請は、宗教法人法六五条で準用する商業登記法二四条四号、八号又は一〇号その他の各号のいずれにも該当しないものと考えられる。

したがって、被告太田登記官が右申請を却下せず、右変更の登記をしたことには、何ら違法な点はなく適法である。

4(一)  なお、原告は、両別院規則六条二項によると、住職は管長が任命するとあるので、大谷派規則附則2において、真宗大谷派の管長の職務に属する事項は、真宗大谷派の宗務総長が行うものとすると定めても、これは大通寺の宗教法人としての自律性を侵害しているし、また原告は、特措条例四条が宗務総長が特命住職を任命すると定めても、特措条例そのものは所轄庁の認証を得ていないので、宗務総長の権限を定めるこれらの規定は、大通寺に対してはいずれも無効である旨主張しているが、右登記申請に添付された参考資料中の、前記の大通寺規則六条、四七条、大谷派規則附則2、宗憲七七条、特措条例三条ないし五条によると、別院の住職は、従前と異なり、当時は、所定の手続を経て宗務総長によって任命され、別院の代表役員となると解することは十分首肯しうるところであり、これ以上、更に、右の大谷派規則附則2や、宗憲七七条に基づく特措条例四条が、原告の右に主張するような意味において無効であるかどうかについてまで検討、探究することを、前記のとおり形式的審査権しか有しない登記官に対して求めることは相当でない。

(二)  また、原告は、大通寺の代表役員の回復登記が原告名義でかつてなされた先例がある旨主張しているが、右事実が認められたからといって、これにより、その後の選任・解任登記が有効になされないわけではなく、したがって、原告の右主張は失当である。

5  以上によると、右2、3の登記処分(本件登記処分(一))を前提としてなされた大通寺及び五村別院の昭和六〇年一一月二六日付変更登記処分(本件登記処分(二))はすべて適法である。

三本件裁決の適法性

行政不服審査法四一条一項が裁決書に理由を付記することを要請しているのは、決定機関の判断を慎重ならしめてその公正を保障するためと解されるから、裁決に付する理由としては、請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を審査請求人に理解できる程度に具体的に明らかにすれば足りる。

そして、本件においては、成立に争いのない甲第一四号証によると、本件裁決は、被告登記官らの本件各登記処分を正当なものと判断し、その判断の根拠、主文に至る論理的な過程は、本件裁決中に右の程度に具体的に明示されているので、その理由付記に不備があるとは解し難く、他にこれを覆すに足るものはない。

なお、原告が本件裁決の理由不備として種々主張するところの事由(前記請求原因5(一)ないし(四))は、畢竟、原処分である本件各登記処分に対する不服にほかならず、本件裁決固有の瑕疵とは言えないので、行政事件訴訟法一〇条二項に照らし、原告の右主張は失当である。

四結論

以上によると、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、その余の原告の本案前の主張については判断するまでもなく棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西池季彦 裁判官新井慶有 裁判官玉置健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例